「地域に立脚した文化遺産の保存」の項で説明いたしました通り、アジア各地では、モニュメンタリティに欠け、観光資源としての価値が低いために文化財として認識されることがない数多くの考古遺跡が、「文化財ではない」という理由から簡単に破壊されております。こうした「見た目のわるい」文化財破壊は、国際テロ組織による世界遺産の破壊とちがい、そもそもが文化財・文化遺産として地域社会で認識されていないため、耳目をあつめることなく毎年おびただしい数の文化財が破壊され、消滅しております。そのもっとも顕著な例が、カンボジアにおける窯跡遺跡です。
カンボジアを代表する文化遺産であるアンコール遺跡は、学術的な重要性もさることながら、その規模の大きさ、建築装飾の見事さなどから、観光資源としての価値もまた非常に高く、「見た目」のよい遺跡であるからこそ、「破壊の危機にさらされた遺跡を護る」事への共感も呼びやすいのだと言えます。
しかし、こうした「破壊の危機にさらされた遺跡」以外にも、地上に遺構が残存していないために研究者以外にはその存在が知られることがなく、そのため「遺跡」として一般社会に認知されることのない遺跡がカンボジアには存在するのです。残念ながら、その総数すら正確に把握されてはいないが、先史時代から現在までの遺跡の総数は、地上に遺構が残存している所謂アンコール遺跡の数倍以上であることは間違いありません。
アンコール時代の窯跡で生産されていた焼き物は、クメール陶器と呼ばれます。クメール陶器は、日本や中国、朝鮮半島などの東アジアの陶器とはまた違った独特の形態と釉薬のかけられた陶器は、1960年代以降徐々にその価値がみとめられ、鑑賞やコレクションの対象となってきました。
内戦終了後のカンボジアでは、このクメール陶器の窯跡が続々と発見されていますが、石造の寺院とは違い、そもそも一般には文化遺産として認識されていないため、盗掘や破壊の対象となっております。 当研究所では、こうしたクメール陶器窯の発掘調査を、文化遺産教育プログラム、現地学生研修プログラムと平行して行っています。
2016年度以降の調査については改めてご案内いたします。