地域に立脚した文化遺産の保存

文化財には、それを生み出した地域に固有な歴史的価値と、グローバル化された現代社会における、いわば「人類を分母とする」普遍的な価値という二つの側面があります。

この二つの側面は平等に尊重されなければなりませんが、20世紀末まで政治的混乱が続き、その後急速にグローバル社会へと組み込まれた地域の多いアジアでは、文化財の普遍的な価値を強調しすぎたが故の問題が起きています。たとえば、インドネシアのボロブドゥールやカンボジアのアンコール遺跡では、遺跡を世界文化遺産として登録する際に遺跡周辺住民の強制排除や生活基盤の抹消といった問題がおきているが、未だに有効的な対策は打ち出されてはおりません。

また、こうした問題の裏返しとして、モニュメンタリティに欠け、観光資源としての価値が低いために文化財として認識されることがない数多くの考古遺跡が、「文化財ではない」という理由から簡単に破壊されております。

そのため、文化財総合調査研究所では、このような状況を踏まえ、世界各地における、文化財・文化遺跡について深く体系的な知識をもつだけでなく、それを生み出した地域の性格、特性、独自の構造を地域に根差して内側から理解することにより、1)文化財の調査・研究、2)成果の地域への還元、3)現地の価値観を尊重した文化財の保存と活用、が一体化した新たな文化財研究の実践的枠組みの構築を目指しております。

具体的には次の3点を課題として活動をおこなっております。

1)文化財の調査・研究
日本を含む先進国で開発されつつある高度情報機器を使用した高精度調査を、現地の社会・文化的文脈に立脚して行い、文化財調査のグローバル・スタンダードを確立する。

2)成果の地域への還元
調査成果を英語で公刊するだけでなく、現地語での出版や現地での展示、文化財教育等啓蒙活動へと展開する。文化財の調査から調査成果の現地還元までが一体となった新たな文化財研究モデルを構築する。

3)現地の価値観を尊重した文化財の保存と活用
文化財をとりまく現地の価値体系の総合的な理解の上に立ち、遺跡・遺物と周辺地域住民の関わり合い(e.g.生活の場としての遺跡、伝統的祭儀の場としての遺跡)を活かしながら、その歴史的意義をグローバルに発信するための方法論を開発する。

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